マッチレビュー グループH「スペイン×チリ」@ビアザウルス


フットボールデカローグ叢書 
第二回配本予定
Eu esfrego nadegas/黒川直樹』から抜粋



――


match47
6月25日(金)
3:30(現地20:30)
チリ×スペイン
1-2 スペインWIN
プレトリア


――


予想
チリ1-1スペイン
『スペインはイニエスタトーレス、そしてシャビをベンチに置く。イニエスタトーレスイエローカードの累積(決勝リーグに行けば累積は消化される。しかし、三試合目で二枚目のイエローを受け、次節出場停止処分は決勝リーグ一戦目に適応される)を気にしたのだろうと憶測を呼ぶが、やはりスペインの調子が上がってこない。チリは勇敢に攻め、ビエルサは怒気と緊張とで練られた彫像のように見えたが、おもたい石の印象は、まま意思。一徹に指示を送り、選手たちもそれに応える。1-1 のドロー。しかし勝者は明らかだった』


――


イニエスタトーレス、そしてシャビ」は出場していた。(南アW杯では「決勝リーグに行けば累積は消化される」というカタルシスも望めないらしい)
「やはりスペインの調子が上がってこない」わけでもなかった。


試合前半、感動が呼ばれる猛攻のチリ。
専守を強いられるスペインを何年ぶりに見たことか。無敵艦隊が押され続ける。「チリは勇敢に攻め」た。「速度」に呼ばれるようなスプリントに弾けるMFボーセジュルが幾重にもポルトガルのサイドエリアを切り裂いた。スペインのお株を奪うパス回しに観客を沸かせた。実況と解説「倉敷&羽中田」のスカパー/リーガ・ホットセットも「チリ、すばらしい出足ですね」と感嘆をあげた。チリはやり過ぎくらいにやった。やり過ぎくらいだった。「チリは意気込み過ぎているかもしれませんね、強烈なチャージの連続」とバルサのソシオでもある羽中田さんが驚く。


ヤる気にトび気味なレフェリーだった。ありきたりなファウルにイエローが提示される。何度もだ。チリもスレスレのチャージを止めない。し、しかし……レフェリングのクオリティが低いレフェリー相手にそれはどうなのか。それも勇猛か。チリは「勇敢に」戦った。開始20分までスペインのゴールエリアには8人のスパニッシュがディフェンスに追われていた。チリはやった。やり過ぎくらいにやった。やり過ぎくらいだった。やり過ぎた。メデル(前半15分)ポンセ(前半19分)エストラダ(前半21分)エストラダ(前半37分)が二枚目……37分過に二枚目の警告を受けてエストラーダが退場した。アーメン。
チリは25分に上がりまくりだった右SBの裏を、逆襲を狙ったスペインのミドルフィードで突かれ、フルダッシュしたGKとトーレスがハーフウェーラインから数メートルのところで交錯し、このこぼれ球を攫(さら)ったビジャにテクニカルなアプローチショットを喰って「0-1」。チリの炎は膨れた。終わりまで燃え続けるのか? 「積んでる燃料を考える時間があるなら攻めのみに用いる」とでもいうようなILLプレス、プレス! プレス! ところが三十分過ぎだ。空回り気味だったレフェリーがトーレスに騙された。三下がトーレスのアンフェアなダイブをチリのエストラーダが犯した悪質なファウル故と判じた。それで二枚目のイエロー。エストラーダ退場。フィアー? ホラーだったろうチリに。オーメン


この試合のスペインは初戦よりは連携があった。終わってから思ったことだが、チリの猛攻を受けながらも落ち着いていた? 若手力士の勢いある寄せに土俵際まで押されるものの、がっちり受け止め動じずネオン街じゃ賭博に引きずり込む横綱みたいなもんだったか? どっぷりだったのは大関か。地上放送の無かった二戦目のスペインについて、フットボール関係で唯一読み続けているブログ「蹴球中毒な男の独り言日記(http://ameblo.jp/regateador-7/)」の尊敬する書き手「regateador-7」さんが「スペインが上向きにある」と書いてらした記事も頭にあった。どうやらトーレス、ビジャ、イニエスタもコンディションをあげてきた。チリに強いられるディフェンスもバランスを崩してバタつく様子はない。0-1から試合を動かしたのも彼らだった。出足の速いカウンターから左サイドでフリーになっていたビジャにボールがわたると、彼はリズミカルなフットワークに中央へスルーを流し、意匠をかもし出すトラップから流れるようにインサイドで一振りしたのはイニエスタだった。前半36分で2-0、スペイン。


ゲームは膠着状態に陥り、さすがのチリも失意が深いと見えた。まして彼らはスペインより一人少ない状況だ。しかし二点差での敗北は旗色が悪い。スイスの戦績如何でリーグ敗退もある。どうするかチリ、ビエルサ。アルゼンチンを率いていた頃より随分と肉付きがよくなったビエルサ。ロングボール一辺倒だったイタリアユースのベンチに試合後「おめーらがやってんのはフットボールじゃねー!」と怒鳴り込んだビエルサ。喜怒哀楽を隠さない人間味あふれる鬼軍師ビエルサホモサピエンスの感情を耳(じ)る神々の憑いた着ぐるみのようなビエルサ
後半開始まえにチリの選手交代が告げられた。DFのバルディビアに代えてMFのミジャール。DFとMF。ポジションから考えれば「運動量を増し、アタックをかけろ」の指令か。これが当たった。後半いきなりの47分だった。中央エリア寸前からのミジャールのシュートがピケの足をテコにし、キーパーが予測できない屈折でゴールに刺さった。チリが一点を返す。


スペイン2-1チリ。これが最終スコアだった。
ミジャールが決めてからの糞ゲームはスペイン、チリ、世界中にファンがいる両チームの試合とは思えない談合感に褪せた。
チリが果たしたスペインの肉に熟れし催淫性のJAMは、いまや両国選手団とその打算だけを運ぶJALという名の白い鳥だった。


以下は実況を担当されてらした倉敷保雄さんのコメント。
「これはきっとリーガならブーイングが起きていますね」
「意味のないボール回しが続きますね」
「シュートはいつからありませんか? えーと、もしかしたらビジャールの……」
「ん? 両国のファンがスタンドでじゃれ合っていますね」
「カメラマンも何か面白い物や景色がないか探しはじめました」
「もしかしたらピッチの中より外の動きの方が多い試合かもしれません」
「さっきからシルバが交代を待っているんですが……」
「もう何分ですか? 何十分? ボールが外に出ませんし、ファウルで止まることもないのでシルバが試合に入れません」


在る。しかし。無い。
居る。だが。居ない。
あのように永くプレーが途切れない試合がかつてあったか。
経過だけのゲームは形而上学的なタイムだった。
結局シルバは入れなかった。その前にゲームが終わったからだ。
スタジアムじゃ鳴りっぱなしのブブゼラが掻き消したろうが、池袋のビアホールじゃブーイングとFワードが飛び交っていた。
2-1の談合(ルビ→スコア)によってグループHはスペインが1位抜け、2位がチリ。


剥取喝砕(はくしゅかっさい)。


(6/27〆)