奇なる跡にあたり。


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CoverImage/RobertHenri



 偶幻を痣にするならばくちよせ




こんなこともあるのだ。
対岸の灯を欲し、カメラを滑らせながらシャッターを切り続けた百二十枚に、このようなアルファベットの三文字だ。
水の女神の戯れか。
黒川に「染め色,色合い」の光文とは、なんの含みか。


常闇に、時の滲みた本をとく。
なにかが湖面に跳ね、そして着水した響きだ。

余韻だけすくって、胸元に隠す。
立つ。歩き、音をさせずに戸をひらく。


逢瀬にふさがれる耳だ。
せせらぎから遠く放たれるが、はんだ髪が揺れるのだ。
吾が名の、このくすんだ黒が、如何様に染まるかの物見とは、よこしまな夢見か。


恥じらいを吐息だけに濾過する闇は相掛けの衣だ。
脱がされるために誂えた不倫のひとえに添い、記憶ふるいのくびれに喉をうずめ、未惑しらずを嗅いでいるうち、懐から忍びを抜かれる。


妬けた膚に中てられるのは唇のあつみだ。
口うつしにされるのが水うちの余韻だ。


毒のように貴女おまえが沁みる。


血が濡れる。