LIVEレポートのような散文【諸根陽介 × ju sei × 河野円】 + ファーガソンと香川真司のこと【 ユナイテッド×ニューカッスル 】の散文




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10/13 LIVEレポート
【諸根陽介 × ju sei × 河野円】
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留め具なら外した。
口のあいた籠なんだ。もう出てったっていいのだ。
なのに、なのにヒクヒク鼻をふるわせながら、草ばかり食っているのも幸せなのかもしんない。
わからん。
わからなん。
おれんじ色の籠だった。
水道橋までは着いた。


フォーク、ロック、パンクでパフォーマンス的な魅力も豊かに備わったノイジーな音楽時間から、毒っ気あるユーモアが失われることはなかった。
『諸根陽介 × ju sei × 河野円』のトリオセットだ。
練りに練られた曲順と構成 ―― ソロを含めた演奏者のコンビネーションとその組み合わせ《セット》は・・・・・あれは大人の童話・・・・・一枚のアルバムをじっくり聴いているような夢心地クオリティ・・・・・およそ90分間のまどろみ・・・・・
それがこのLIVEの印象だった。




ヴォーカルのせっちゃんの『ある夜のエクス』朗読も強烈だった。
クラシックの作曲家っていうのは、まいどまいどまいど! こんな興奮を体験できるのか?
たまんねえな!


『エクス』は複数の物語がパラレルで進んでいく構成で、特にひらがなのチャプターは「語り/聴こえ」による脳内リライト=物語の多層性が面白さになったらと思いながら書いたから、読みあげの言葉がひとつずれたり、ブレスの位置をかえるだけで、聴こえるつづりのニュアンスも、立ち現れるイメージもまるで違うものになる。
ときには作者も知らない、まさに『X』な世界が浮かび上がる・・・・・ということをすっかり忘れていた。
せっちゃんのリーディングに思い出させてもらった。


とにかくリーディングが凄かった。
彼女は一字一句、文面のとおりに読んでたはずだけれど、その声を聞いてると「これって彼女が書いた本なんじゃないの?」と思うほどしっくりきていた。
こうした彼女のセンス、タレント、パーソナリティに加え、諸根君が引出すオシレーターという楽器、その音色や空中に一筋の電子ボーダーを震わせる音の振動 ―― 糸ひくデジタルな魅力と“間断”のマリアージュ ―― おれがあの本に篭めたもの以上の照返《リバーブ》は、まさに作品が書き手を超えていく臨場感だった。
この『エクス』リーディングとオシレーターのセットを回想した諸根君は「せっちゃんは声で、ぼくは楽器《オシレーター》がリーディングするように音を鳴らしたかった」といった。


見る、読む、聴くことの不可思議ウサギ。
ああ。
ちがうちがう、ちがうの。
ウサギに意味はなしなの。


諸根君は『エクス』について「あの本てユーモアが絶えないんだよね。だから読んでるとさ、ついつい笑っちゃう」と楽しんでくれたうえで、せっちゃんとのセットに載せてくれたらしい。
光栄だった。
さらにはリリースから3年近くたった今でも、打ち上げの場で話題にしてもらえるなんて。これから音楽やLIVEに特化した文章も書ていきたくなったし、そのアイデアも刺激もたくさんもらえた。





諸根君とせっちゃんについては上に書いたとおり、そして河野さん、田中君とキャリア・テクニック・センスの固まりみたいなハードコアな人の演奏は、されど肩肘張らず自然体な音色があって、それでいて凝縮的な集中力の持続(このLIVEは、こうでなければならないんだろうな、という沁みる時空間)に紡がれた。


河野さんのソロには緊張感が走った。
ストロボの効果とのセットで場の空気が一変した。
演奏に用いられる電子音の性質だけではなく、彼女が具えるシャープネスが発現しているんだろうと想像した。ソロやグループでの演奏をあらためてゆっくり聴きたい。
田中君は自作ラップがひどい。
ひどいくらい、よかった。
いまだに木霊してる。
「ここ東京、東京、ここ東京・・・・・」
って、田中君て横浜育ちじゃねえの?(笑)
ギターも作曲もうめえのにとぼけてるところが消えないっていう見逃せなさ。


行ってよかった。
写真もたくさん撮れた。
それと水道橋『Ftarri(ふたり)』というCDショップの居心地のよかったことな!
店主・鈴木さんにもご挨拶させてもらい、なんと、こんどFtarriで何かやらせてもらう約束をした! 
なにやろう。たのしみすぎる。


と、こんな感じかな。





あれ?
なんか目、赤くない?


草ばっかり食ってるの、やっぱりよくないよ。
もう籠、あいてるし。



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LIVE用リーディングテキスト・アイデア
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(仮)『五十音の冒険:その一 〜“あ”行の行進《マーチ》〜』
とか書いてみたい。
いろいろやってみたいことがある。
音の響きに特化したテキストな・・・・・
リーディングしてるうちにおかしなことになっていくやつ・・・・・
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【写盤】からLIVEスナップ集
http://shaban.ldblog.jp/archives/18933631.html
http://shaban.ldblog.jp/archives/18983925.html
http://shaban.ldblog.jp/archives/19046748.html






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10/7 イングランド・プレミアリーグ
【 ユナイテッド×ニューカッスル
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54分 ――


2点取ったユナイテッドは香川がOUT→ナニがIN。
試合開始からアグレッシブにやってたユナイテッドだけど、その後は「下位チームが格上にリードしたときの戦い方でも真似てるんですか?」と揶揄したくなる体たらく・・・・・よくいえば「省エネモード」だった。
このゲームの香川選手、まず右MFでスタートし、つぎは左にまわされ、流れの中じゃ(ほかのエース格の気まぐれな位置取りにあおられ)トップに入ることもあるしで、それでも香川選手はピッチで何かを起こそうと走ってはいたものの・・・・・


ファーガソンにヴィジョンはあるのか?


開幕から一ヶ月ちょっと。
ユナイテッドは彷徨いに近い迷走にある。
ルーニーなど主力に怪我人がいる。
ユイナイテッドみたいなリーグ優勝を狙うクラブは、この時期にフルフォームをあてない。
調子が出ないのもわかる。
わかる、わかるが・・・・・それも「フィットネスの質がまだあがらないよね」という状態ならいい。
戦術的な狙いはあって、方向性も打ち出されていて、メンバーもそこに向かうよう共通の意識とヴィジョンに従っていれば問題はない。


どうにも、そうじゃない感があって、いけない。


戦略よりも奔放性を求め、ポジションもフレキシブルでフリーキー、チームの連携が甘くとも「俺にヤラセロ」のモードでオールオーケー、ひとりで試合を決める ――
香川選手はそういったプレイヤーじゃない。それは昨シーズンまで活躍し、ドイツで伝説を作ったドルトムントでもプレーを見ていれば明らかだ。
彼はチームメイトとの連携をベースに、そのギアチェンジやアクセルの踏み込みを担い、ペナルティエリア内でフィニッシュに絡む。つまり決められた中で、その枠を超越していくのが彼の真骨頂だ。





で、ファーガソン監督への疑問だ。


ユナイテッドはこれまでのような「サイドアタッカーを走らせ、クロスボールを入れる。長いパスを多用したパワフルな・・・・・いや厳しくいえば近代のスタイル」を捨てきれていない。センターフォワードに位置するペルシをはじめ、個の力でぐいぐい押していくプレーヤーが重宝され、意識改革もないまま昨年と同じように試合をしているし、そうでなければゲームにならない醜態すら見せる。


今シーズン、ファーガソン=ユナイテッドは変身するんじゃなかったのか?


いま世界最高のフットボールをしているのは(フットボール史上最強とすら言われるが)スペインのFCバルセロナ、通称“バルサ”だ。
独自のアイデンティティと若手教育システムでもって、再び世界を虜にしたバルサの輝きに焦れたファーガソンは、しかしプロコーチとして冷静に現状をアナライズし、これまでのような“古い”フットボールではバルサに勝てないと・・・・・さらには日に日にアップデートされる最先端のフットボールシーンに置き去りにされる・・・・・と考えたはずだ。
そこでスカウトされたのが、ブンデスリーガで伝説を作り続けていた小柄な日本人 ―― 香川真司だった。


この決断にイングランドの世論が割れた。
これまでプレミアリーグで長く活躍できた日本人選手はいない。
まして世界的な座標で眺めれば、二等星、三等星でしかない日本国の選手・・・・・それも小柄でパワーに劣るプレイヤーだ。
ブンデスでMVPクラスの質があるMFだって?
知らねえよ。
ドイツのことなんか知らねえ。
おれたちはプレミアだ。
世界NO.1の質にあるリーグだ。
新人もベテランもキラボシノ如・・・・・だ。
香川というジャパニーズの獲得とは、ユナイテッド一流のアジア向けリップサービス ―― 金儲けなんじゃないのか?


内実はどうか。
報道を頼りに語り直せば、ファーガソンはじめユナイテッドの言い分はこうだ。


香川獲得が様々に噂されている。
端的に言えば、我々はマンチェスター・ユナイテッド。世界でもっとも優秀なフットボールクラブとして名を馳せる。歴史と責任、そして自負《プライド》がある。今後のビジネスを鑑み、アジア展開に重きを置いているのもまた事実だ。
しかし、我々のボスであるサー・アレックス・ファーガソンは「どれだけ金になろうと、使えない選手は獲らない」という厳格なポリシーを生きる。
シンジ・カガワが身につけたクラブシャツがどれだけの収益になろうと、それだけをもって彼を獲得することはありえない。
香川は稀有な才能だ。
それは我々のプレミアリーグ同様、世界的なリーグであるブンデスリーガにおける2シーズンで証明された。
昨シーズン、ファーガソンは何度もドルトムントのゲームに足を運び、香川のプレーを確かめた。


・ゲーム終盤まで落ちない運動量
・平均値の高いパフォーマンス ―― むらのない集中力や精神力
・スペースのないところにスペースを作る動きのクオリティ
・極小のエリアでボールを扱うコントロール技術
・ワンステップやワンダッシュでゲームの流れや主導権を切り替えられるチェンジネス
・高度な戦略=オートマティズムを理解したうえでプレーしつつも、時折そのルール/フレームを動物的な本能《パッション》で内から(自ら)崩し、チャンスを創造《メイク》するクリエイティビティ
・パスやクロスにピンポイントであわせ、フィニッシュできる最前線での決定力


現代、このような能力はメッシ(FCバルセロナ)、マタ(チェルシー)、シルバ(マンチェスター・シティ)など限られた選手だけのもの ――
ファーガソンは結論付けた。
「彼こそが我々の革命家《メシア》だ」





だが、ファーガソンはこの香川真司を使いこなせていない。
それどころかチームは空中分解の危機 ―― 亀裂が浮かびはじめている。


このニューカッスルとのゲームにしても、前半で2点リードしたタイミングこそ、ニュー・ユナイテッド化を果たすべく、連携や新システムを成熟させる絶好機だった。
だが、ファーガソンは香川を下げ、ナニを入れた。
昨シーズンと何一つ変わらないスタイルだ。
センターフォワードに、ベルバトフエルナンデスという、連携からのつなぎをフィニッシュに持ち込んだり、点であわせる勘の鋭いプレイヤーではなく、オールラウンダー(なんでも一人で! やっちまうぜ!)のファン・ペルシを据えているところにも、悪寒にそっくりな既視感が漂う。
(まあペルシはトップフォームなら世界NO.1かもしれないFWなので、彼を責めることはできないし、彼を活かす戦術を考案するのだって、勝負の世界においては1つの“正攻法”だが)


マンチェスター・ユナイテッドという1クラブはそれだけで世界的な経済圏であり(あらゆる業種の会社やグループと比較しても、超優良企業という数値が出ると、経済の専門家がコメントしていた)資金も潤沢 ―― 所属選手の質はワールドクラスだ。特に攻撃的なプレイヤーに関してはそうだし、次々とあたらしい才能が呼び込まれてもいる。強いDFでブロックを固め、彼らにボールを預ければ下位から中位のクラブには取りこぼしが少ないし、古かろうと時代遅れだろうとそこはレッド・デビルズ(ユナイテッドの綽名) ―― よって落ちるところまでは落ちない。変身を忘れようと改革が骨抜きになろうと、CLでベスト8に残るだとか、リーグで優勝を争うくらいのことはやるだろう。


ただ、それでいいのか。
よくないから香川を獲ったんだろう?
バルサに勝てないどころか改革を進めるビッグクラブや新興勢力にだって駆逐されるぞ、ファーガソン





70分 ――
ユナイテッドは追加点を奪い、ニューカッスル相手に3-0のポジティブ。
そこからは残り時間を流してプレーした。


スーパー・エースのウェイン・ルーニーと、レギュラークラスのCBが何人か復帰してから、本格的な改革がはじまるのか。だとしても下準備として進められることはいくらだってあるし、現状、ナニやバレンシアを始めとした昨シーズンの主力組と、改革の鍵を握る香川とのコンビは、率直にいって悪い。香川は新入生として律儀にプレーし(遠慮し過ぎくらいに)、チームメイトからの信頼を得ようとしている姿がはっきり見えるが、レギュラー選手たちからのリスペクトはなく、ギクシャクした関係性がピッチ上に露呈し攻撃の勢いや守備への反転 ―― 復元力にだって障っている。過去、メンバー間に信頼関係が作れず、改革に失敗したクラブは数知れない。このままではチームが空中分解する可能性もある。


しかし、このクラブはユナイテッドだ。
たとえ改革に失敗しようと、25年間に渡って指揮を取り続け、アンタッチャブルな存在として君臨するファーガソンは辞めない。方向転換があるとすれば、それは香川が見切られ、昨シーズンのスタイルにリセットされるだけのこと。香川真司は敵チームではなく、まずチームメイトを圧倒するだけの結果が求められる。





シーズン前の花飾り ―― 一時のオリエンタリズムとして消費されないために、ここはゴールだ。
香川選手はアタックに関しては唯一といえるウィークポイントの“ミドルレンジからのシュート”にも積極的にトライしていくべきだ。その軌跡が、世界的なビッグクラブの改革 ―― そして自らの未来への道筋となる。


ユナイテッドがどのように進化するとしても、我らがFCバルセロナにとって最強のライバルになることを望む。その敵方の核《コア》として暴れ回るのが赤鬼と化した香川真司だとしたら、いうことはない。



香川選手の怪我が長引いている。
一日も早い復帰があるよう。





2012_1123