ワルプルギスで待つ。


おめでとうインター・ミラノ
あなたたちは狡猾に戦い、貪欲に奪った。
いまごろは悪魔の柄の酒瓶の美酒が、
決戦をやったにぶいくたびれに甘く染みているだろう?


いや、わかっている。
前半の5分から自陣前に8人を並べたのだって、
貴方たちがそれだけFCバルセロナをリスペクトしていたからだ。
一試合を通じて集中を保ち、
世界最高のパスサッカーをいなすなんて、
どんなクラブにでも出来ることじゃない。


ああ、だから。
罵詈雑言なんて口にしない。


ただモノ忘れがひどいたちでね。
ひとつだけ書いておこうと思って、
それでこのようにキーを叩いてる。


……戦っているのはフットボールのゲームであるはずなのに、
別の競技をまっとうしているかのような屈強なイタリア産のゾンビどもが、
ことごとくファウストの呪詛にしこまれ、
ところがその魂は死ぬに死ねないといった悶絶にきわまっており、
そんな忌々しさに震える悲惨な十一の木偶を前に世界一のパスワークを繰り出し続けた、
真紅のレジスタンスことFCバルセロナのエンブレムを汗で重たくした彼らのことを、
私はこれからも、メッシ……
ペドロ……ピケ……
マクスウェル……ミリート……アウベス……
チャビ……
イブラヒモビッチ……ボージャン……トゥレ……
ケイタ……バルデス……ブスケツ………………
プジョル……
ティエリ・アンリグァルディオラ…………………………
そのひとりひとりの名前をもってくり返し追憶する…………その運動も、
その攻撃も、その防御も、
その快走も、その跳躍も、その抗議も、
その追走も、その落胆も、
その凄惨も……その連動も、その決意も、その
すべて彼らの名前とともに、
私のいくつかある臓腑の底を割って、
うつつの綾として込み上げるだろう……


いいや、こういうことはあるのだ。
悪を名指しできる時代だって神の死とともに流れた。
それだって今から120年も昔のこと。


それにしても、インター・ミラノ
聞いてくれるか?
おかしいんだ、どうやら貴方たちは
「一試合を通じて集中を保ち、
世界最高のパスサッカーをいなし、
限られたクラブにしか出来ことを成した」
というじゃないか。
ところが、その肖像を捕まえようにも、
さっきからずっと、
いけないままなのだ。
私の回想に浮ぶのは貴方たちが着せられていた白装束と、
1番 雪隠
2番 恥辱
3番 圏外
4番 虚偽
5番 下痢
6番 腐敗
7番 寝糞
8番 性病
9番 菊門
10番 笑止
11番 固陋
という単語の羅列。


そんなはずはないのだ。


チャンピオンズ・リーグはフットボールにおける世界最高の舞台だ。
その準決勝の余韻に、
言い知れぬ感動や嗚咽こそあれ、
なぜにおぞましい単語ばかりが並ぶのか。
栄えあるステージに躍動したはずの貴方たちの姿が、
まるで薄汚れた白い墓石のようにしか思い出されないとは、
一体全体どういうわけか。


おかしいんだ、ああ、わかってる。
どれもこれも敗者の迷妄なのだな?
とにかくおめでとうを言うよ、
インター・ミラノ


バルサだって勇敢に戦ったし、
今夜はその戦意と技術が女神の微笑にあずかった。
しかし勝ち抜けのルールに適ったのは貴方たちだった。
それだけのことさ。


フットボールはゲームだ。
ぞんぶんにファイナルを楽しんでくれ。


これよりひたすらに黙し去って、
私は今宵……
そうだな、疑念?
ああ、君たちの行いについては血判を突きつけたりせず、
しからば永劫に託すとしよう。


しかし、奇特な誰かから、
イタリア、ミラノの白い石に墓碑をとオーダーされることがあったなら?
……そうだな。
先にあげた熟語を一つ一つ薄汚れた遺志に餞とし、
ついでこの11文字を刻もう。


 永 遠 に 貴 様 ら を 許 さ な い


ところで、やはり昨年の王者は強かっただろう?
鋭気を養うためにバルセロナへのバカンスはどうか。
あわよくば、フットボールには攻撃という魅力があることに気づけるばかりか、
ジョゼという名のファウストが、
メフィストフェレスとの密会に差し出した、
貴方たちの恥までもをあらためる機会になるはずだ。


いつかフットボールの美について語らおう。
ワルプルギスで待つ。




―――――――――――――――― 白川直樹